「させる」より「される」

お笑いって、見てくれている人をいかに笑わせられるか、が勝負のように見えますが、視点を変えると「笑わせる(使役)」のではなく、いかに「笑われる(受身)」か、でもあるんじゃないでしょうか。

つまり、「させる」よりも「される」、なんです(長井秀和風)。

というわけで今日のテーマは、そのまま

 「させる」よりも「される」

なんです。


ぞくぞくと新しいお笑い芸人たちが登場してきていますが、大半はいわゆる「自虐ねた」芸人という印象が強いです。見ていてすごく「痛い」ねたも少なくないのですが、ブレイクしている芸人の持ちネタの多くは「自虐ねた」だったりもします。

「笑わせる」にはテクニックが要りそうですが、「笑われる」だけなら自分をおとしめるだけで済みそうで簡単そうです。「あの人、バカだなー」「こいつほんまアホやなぁ~」と思ってもらえるようなことをすればいいわけですから。

でも、もちろん簡単なはずがありません。


最近「エンタの神様」でよく見かけるいとうあさこさんは、どちらかというと「笑われる」路線を邁進している芸人の一人でしょう。

例えば、最近のネタでは、、、

「相手はいないけど、万が一に備えて、毎年6月に式場の予約だけは入れてあります。
 ひくよね? いとうあさこです」

「抜け毛で少なくなった髪は枝毛でカバーしています」(満面の笑みで)

「『あの頃に戻りたい』って言う人はたくさんいるけど、私には戻りたい時代はありません」


・・・正直、見ていてとても「痛い」です。(>_<)

彼女のネタに観客たちが爆笑している、そのさまこそ「ひくよね」って感じなんですが、1つ気づいたことがあります。

それは、「笑われる(受身)」のも「笑わせる(使役)」と同じくらい難しいんじゃないか、ということです。なぜなら、そこにはある種のしたたかさが求められるからです。

やたらに自分をおとしめさえすれば笑ってもらえるかというと、そんなことはないですよね。おとしめるにもホドがありますし、マニアックなおとしめは本当に「ひくよね」になってしまって、笑えません。

相手の共感を得られる程度の「あるある」な自虐でなければ、ピンと来ません。そういう意味では「あるある探検隊」のレギュラーは文字通り「あるある」な自虐を展開しています。

多くの人にピンと来る、ある程度の広さをカバーするような「あるある」を常日頃から丁寧に拾い集め、そこに自虐をはめ込む、という地味で地道な努力が必要とされます。

「したたか」とは漢字で書くと「強か」と書きます。つまり、生半可な気持ちでは自虐ネタで笑いは取れない、もっと言えば、ココロが強くなければ自らのプライドを試せない、と思うのですよ!

・・・ちょっと熱くなってしまいました(アンガールズ風に言うなら「お前がヘンなこと言うからテンション上がっちゃったじゃねーかよー」という感じでしょうか)。


仕事に置き換えてみましょう。お客さんを相手に何とか自社の商品を買わせてやろう(使役)という思いって強くなりがちだと思うんですが、逆に、自社の商品が買われるようにしよう(受身)というアプローチはいかがでしょう。

勢い「買わせてやろう」と思うと肩に力が入って、空回りしたり、買いたいと思っていない人にまでゴリ押しして心証を悪くしてしまいかねません。

一方「ま、よかったら使ってみて」という、一見消極的かつ受動的なアプローチであれば少なくとも相手の心証を傷つけません。ただ、もちろんこれだけではダメです。

そういう低姿勢でありながらも「あなたならこういう場面でこういう使い方をするといいんじゃないかな、って思うんですよね」などといったお客さんにとってピンと来るような「あるある」を一緒に出すのです。そうすることでお客さんに自分から動いてもらうようにし向けることができます。

そのためには、お客さんが普段何をしていて、どんなことを考えていて、どんなことで困っているのかを地味に地道に観察する必要があります。

自社の商品を、

 欲しがりそうな人に
 欲しがりそうなシチュエーションで
 欲しがりそうなメリットとして提供する

のです。

お客さんに(強引に)買わせるのではなく、お客さんに(自分から)買ってもらえるような仕事をしたいですね。

大きく考え、小さく始める

“千里の道も一歩から”とはよく言われることですが、やはり「最初からいきなり大成功♪」というシナリオはなかなか実現しづらいものがあります。

もちろん、夢は壮大に太く色濃く描いていくのがよいでしょう。
でも、現実は細くとも確実に一画ずつ地道に書いていくしかありません。

小さな成果を積み上げながら、やがてそれを雪だるま式に膨らませていく。時には壁に阻まれたり、プライドを損なったり、辛酸をなめることになったり。そんなプロセスの中にきっと人の成長があるのだと思います。

海外でも、以下のような警句というか箴言(しんげん)をよく目にします。

・Think big, Start small. (大きく考え、小さく始める)

そのあとに「Scale wide(広く展開する)」が続く例もありますが、今回のテーマは、

 「大きく考え、小さく始める」

です。


さて、最近ブレイクの兆しをビンビン感じている芸人に摩邪がいます。

どんな芸風かについての詳細はリンク先に譲るとして、注目しているのは摩邪の(たぶん)したたかな“自分戦略”です。


最初は、

 「おい!世の中のチャラチャラした女ども!!
  今日はお前らに言いたいことがある!
  よ~く聞け!」

という、もっぱら「女ども」ターゲットでネタを展開していました。


それが最近では

 「おい!世の中のチャラチャラした奴ら!!
  今日はお前らに言いたいことがある!
  よ~く聞け!」

と、ターゲットが拡がりました。


具体的には、

●女ども

 「『あー、虫にかまれちゃった~!超サイアク~』って言う女!

  最悪? ハァ?

  最悪ってのは最も悪いってことなんだよ。
  虫にかまれるのが最悪だったら、もっと悪いことが起こったら
  なんて言うんだよ、コノヤロー!」
  (マイクを床に叩きつける)

●奴ら

 「『手袋の反対は?』
  『えと。。。ろくぶて!』
  『123456! ろくぶてって言ったじゃん!』って言うガキども!

  ろくぶて? ハァ?

  そんなふざけたトリックで人を6回もぶっていいわけねえだろ!
  だいたい『ろくぶて』なんてヘンな言葉、日本語として成立してねえんだよ!
  本当に6回ぶって欲しい人っていうのは
  
  『6発、ご褒美をください、女王さま』って頼むんだよ、コノヤロー!」
  (マイクを床に叩きつける)


 「『名前だけでも覚えて帰ってくださぁ~い!』って言う漫才コンビ!

  名前だけでも? ハァ?

  その名前を覚えんのが一番むずかしいんだよ。
  歴史のテストの時、名前覚えんのどんっっだけ苦労したと思ってんだよ?
  芸人だったら記憶に残るぐれえのウケるネタ考えろっつんだ、コノヤロー!」
  (マイクを床に叩きつける)


最初は若い女性の“あるあるネタ”へのツッコミだったのが、性別・年齢の垣根が取りはらわれ、その“業容”が拡大しています。

これはぼくの単なる憶測・邪推に過ぎませんが、摩邪は最初から世の中に散見される“あるあるネタ”にツッコミを入れたくてしょうがなかったのではないでしょうか。

でも、いきなりそれをやるとフォーカスが定まらず、従って芸人としての個性が立ち上がってこないため、1つの戦術として、とりあえず“若い女ども”限定で開始したのではないか、という仮説です。

この一連の流れは、まさに「大きく考え、小さく始める」を地で行くしたたかな戦略といえるでしょう。

言い換えれば、

 1.“若い女ども”という限られたマーケットでテスト・マーケティングを行い、
 2.その効果(=どれだけ受けるか)を計測し、
 3.自分の“商品”を顧客の視点で改善、
 4.より大きなマーケットに打って出てきた、
 
というわけです。

改善と書きましたが、例えば、初期の摩邪は、サビの部分で「ハァ?」ではなく「アァ?」と発音していました。それでも「エンタの神様」の字幕では最初から「ハァ?」でした。それに合わせたのか、最近ではちゃんと「ハァ?」と発するようになりました。

小さなことですが、テレビを見る側にとっては、字幕と実際の発声内容とが合っていないとなんとなく違和感を覚えるものです。まぁ、実際のところ摩邪がそこまで考えていたかどうかはわかりませんが…。

いずれにしても、作り手のエゴを一方的に押し付けるのではなく、顧客の視点で自分の“商品”を見直し、改善し続けていくという姿勢は日々のビジネスの場面でも見習うべき態度といえそうです。


まずは、身の回りの小さなことから始めてみてはいかがでしょう。

クチコミを誘う

どんなに優れたビジネスをしていても、それが人に知られなければそのビジネスは成長できません。成長のないところに収益はついてきませんから、早晩立ちゆかなくなるでしょう。

人に知られるためには、そのための広報活動をする必要があります。広報の役割は自社が提供する商品やサービスについて、それを必要としている人に知ってもらい、理解してもらう(ひいては買ってもらう)ことです。

広報といえば、すぐに思いつくのがテレビCMや新聞広告などのマス広告です。インターネットではバナー広告やメルマガ広告なんていうものもありますね。最近の調査ではインターネット広告はラジオ広告を抜かしたということで話題になっています。

マス広告が文字通り多くの人に広く知ってもらおうというスタンスなのに対して、ターゲットを絞った形で行われる広報手段(範囲が狭いから狭報?)があります。それがクチコミです。マスコミのようにメディアを介するのではなく、人から人へと人を介して伝わっていきます。マス広告のようなインパクトや即効性はありませんが、人を介するぶんだけ、「この人の言うことなら心配ないだろう」といった信頼性が生まれるのが特徴です。


というわけで、今日のテーマは

 「クチコミを誘う」

です。

クチコミの強みは、例えば「この商品、いいわよ」とか「これ使い始めたら、もうヤミツキなんだよね」といった、その商品やサービスを使った人の生の声であることに尽きるでしょう。

いくらテレビCMで「おいしい!」とか「便利!」などと言われても、実際に使ってみないことには、にわかには信じられるものではありません。それが、自分の身近な人が言うこととなれば、「○○さんが言うんだったら、試してみようかな」ということになりやすいのです。

ところで、「エンタの神様」や「笑いの金メダル」などなど、お笑い番組が放映された翌日には、

 ・「昨日のアンジャッシュ、おもしろかったね!」
 ・「ヒロシが新ネタやってたよ」
 ・「あるある体験隊のネタって全然あるあるじゃないヨー!(笑)」

などなどの会話がオフィスや学校や家庭で繰り広げられることでしょう。つまり、テレビで見たこと(マス)を近しい人同士で話し合う(クチコミ)という流れができているのです。

 マス → クチコミ

そして最近、UR賃貸住宅(旧公団住宅)のCMでアンガールズが出ているのを見ました(ヒント編)。

 田中:じゃ、クイズ出すよ。
 山根:はぃ。
 田中:UR賃貸住宅は、以前は公団住宅と呼ばれてました…。
    あッ! さ、先にヒント言っちゃった!!(うろたえる)

 (はいっ、ジャンガジャンガジャンガジャンガ・・・)

 ※リンク先にて「ヒント編」以外もご覧いただけます(なんと16パターンもあります!)。


おそらく、このCMを見た人は、お笑い番組を見た時と同じように、

 ・「昨日、アンガールズがCMに出てさー。『UR賃貸住宅は、以前は公団住宅と呼ばれてました…あッ! さ、先にヒント言っちゃった!』って、そんでいつもの『ジャンガジャンガジャンガジャンガ・・・』やってたよ(笑)」

といったクチコミを知り合いの人にするのではないでしょうか。つまりこのネタを他の人に伝えるためには「UR賃貸=公団住宅」というポイントを避けて通れないわけです。

これは強力なプロモーションになるでしょう。ぼく自身、このCMを見た瞬間に「あぁ、これは誰かに伝えなくては」と思った自分に気づいて、がく然となりました(笑)。

つまり、このCMは、すでに形成されているクチコミの流れにうまく企業のメッセージを乗せることにより、マスからクチコミへのスムーズなバトンタッチを実現しているのです。

このように「すでにある仕組みをうまく活用する」という視点はクチコミ以外にも応用できそうですね。
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